あやまち            げんこつまる     夢を見ていた     暗く、冷たく、悲しい夢     僕が絶望に膝を抱え、耳を塞いでいた夢     いつまでも続く、永遠に覚めない夢  ウッスラと瞼を開く。マックラの世界がマッシロに染まった。  眩しい……思わず僕は顔をしかめてしまった。  まず目に飛び込んできたのは一面の青。どこまでも広がっている青の世界で、輪のように丸い光球が力強く輝いている。  脳髄が痺れるような脱力感に包まれながら、指の一本も動かせぬままに目をしょぼつかせて空を仰ぐ。  体感するもの全てが無意識に言葉に変換されて、頭の中を緩慢に渦巻いている。  ……眼前に広がる青空……。  ……頬を撫でるそよ風……。  ……昼下がりの陽光……。  ……擦れ合う草の音……。  草の絨毯の上で大の字になっているうちに、いつの間にか眠りに落ちてしまっていたようだ。  状況を呑み込むにつれて、停止状態の思考がようやく働き始めてきたらしい。半分眠ったままの頭脳が、面倒くさそうにその結論を導き出した。    夢……そう、夢だ  不安、焦燥、悲しみ、怒り……言葉では言い表せないほどいろんな感情がごっちゃに混ざったような奇妙な感覚から、徐々に意識が現実へと引き戻されていく。  突如として周囲に展開された情景が現実の世界のものであることが、ようやく実感できた。  僕は頭を振って悪夢の余韻をかき消すと、澄んだ空気を胸一杯に吸い込み、そしてゆっくりとはき出した。寝転がったまま両手足を伸ばし、各部の関節をボキボキと鳴らす。  張りつめていた緊張が解け、思わず安堵の息が漏れた。  あの真っ黒のスライドショーを延々と見せられているような不気味さ。時間の感覚さえ失ってしまうほどの絶望感……。  悪夢特有の錯覚にスッカリ陥ってしまっていた。  冷静に考えれば子供だましと言えるほどの不合理な状況が、夢の中では疑いを挟む余地も無いほど圧倒的な現実感が伴っていた。  なんて悪趣味な……真っ赤な嘘で、あそこまで人を苦しませるなんて……。   歯噛みするほど悔しいはずなのだが、自分を必死に騙そうとしているのが、これもまた自分なのだからどうにもやりきれない。  見上げる空はひたすらに青く、ポカポカとした陽光と時折吹き抜けるそよ風が肌に心地いい。  TシャツにGパンというラフな格好は、スーツで身を固めている時では考えられないほどの開放感がある。眼前に広がる大空を眺めていると、フトそんな考えが浮かんだ。  さっきまではまるで無限地獄の亡者さながらに居竦んでいたのが、それが虚構だと分かった途端に今度は美しい情景に心をウキウキさせてしまっているのだから我ながら現金なものだ。  自分の間抜けっぷりに呆れつつも、とろけるような嬉しさや可笑しさを抑えることは出来なかった。 「なぁにニヤニヤしてるの?」  声のした方に顔を向けると、そこには麦わら帽子にワンピース姿のシルエット。  太陽を背に立つ彼女がそこにいた。 「なんだ……君か」  逆光に目を細めながら言った。  光の強さに目が慣ていくにつれて、彼女の表情が鮮明になってくる。 「なんだとはご挨拶ね。人をほったらかしにしといて、その台詞はないんじゃないの?」  責めるような口調で彼女はそう言ったが、一転してすぐにニッコリと笑った。 「まあいいわ。せっかくこんな素敵な場所にいるんだから、楽しまないと損だもんね」  怒ったり笑ったりとまことにせわしなく表情を変えているが、実のところ彼女の機嫌はすこぶるいいらしい。少しホッとした。  彼女に腕を引かれながら、眠たい眼をこすりながら起きあがる。  そう、彼女の言うとおり楽しまなければ損というものだろう。仕事で疲れた体に鞭を打って、せっかくここまで車を走らせたのだ。この大自然を堪能しない手はないではないか。  僕はそう自分に言い聞かせて、抗議をあげる体を強引に動かし、おぼつかない足取りながらも歩き始めた。  一体どのくらいこうしていただろう。僕らは肩を並べて草原を散歩していた。  見渡す限り続く柔らかな草原は、風に揺れながら光を反射している。名も知らない草々が風にたゆたいシャワシャワと、まるで生命を宿しているかのように揺れていた。  奇妙な浮遊感に身を任せながら、光の海の中をただ歩く。  毎日の雑務に忙殺されていたことがここでは、まるで幻の中の出来事であるかのように感じられた。 「ねえ」  肩を叩かれる感覚で、想像の世界から引き戻された。  彼女の方に向き直って、耳を傾ける。 「世界中のみんなが……」  彼女はそこで言葉を句切って、クスクスと笑いはじめた。  ジッと僕を見つめて、何かしらの反応を窺っているようである。  芝居がかったオーバーな喋り口、イタズラっぽい瞳が少し気になった。  言葉遊びの類だろうか……少し気を引き締めることにする。 「みんなが……何だい?」  興味のない風を装ってそう訊ねる。  すると彼女は、急に真面目な顔になって僕の顔を覗き込んだ。  別にやましいことがあるわけではない……けれど、ジッと見つめてくる彼女に僕の心の全てが見透かされてしまうような気がして……。  彼女のガラス玉のように綺麗な瞳に、僕のとまどったような表情が映し出されている。 「こんな風に、仲良く手をつないで笑っていられたらいいのにね。ずっと」  そう言って彼女はまた、クスクスと笑いはじめた。  肩透かしを食らったような気になりつつも、まるで十代の少女のような発言に僕は苦笑した。  そういえば彼女は時折妙に子供じみた所を見せることがあった。  にもかかわらず、こうも見事にこの常套手段に引っかかってしまうとは。全く迂闊としか言いようがない。  わざとやっているのかと疑いたくもなるが、それは僕がひねくれすぎているだけだろう。  ともかく、思わず赤面してしまうようなこういった台詞を恥ずかしげもなく言えるのは、彼女の魅力の一つかもしれない。  頭を占領していた混乱が波のように引いていくと、何故だか急に彼女への愛しさがこみ上げてきた。  何かの帳尻を合わせるような気分で、僕は彼女を抱き締めた。  いきなりの行動に、彼女の小さな肩がびくんと震える。一瞬引きつったように息を吸い込んで、彼女は身を竦ませていた。  けど、すぐに彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべて、ちょっと背伸びをして僕の頬にキスをした。 「びっくりさせられたお返しだからね」  彼女はさらに強く抱きとめようとする僕の腕からすり抜けると、そう言ってさも楽しげに笑いながら僕から逃げはじめた。  どうやら今度は追いかけごっこがご所望らしい。なんだかはぐらかされた気分だ。一人でロマンチックな気分に浸っていたようで、ひどく自分が情けない男のように思われた。  半ばやけっぱちになって、彼女の背中を追いかける。  端から見た自分の姿を考えるとどうしようもなく気恥ずかしかったが、時折振り返っては挑発する彼女を追いかける事に、いつしか僕は夢中になっていた。  全てのものが美しく見えるのは、綺麗な目をしているからかもしれない。濁った目では何を見ても濁った姿しか網膜に映らないからだ。  自然には完璧な直線をした物はないそうだけれど、たまに見る大自然はまさに全てが緻密に計算された完璧な創造物のように感じられる。ひょっとして、この世界が完璧な物だって言う願望が僕にそう見せているんじゃないだろうか……。  こうしてみると、僕も意外と詩人かもしれない。  なんだ、僕も大して彼女と変わらないじゃないか……。  彼女は足が速い。いくら走ってもその差は縮まることがなかった。ただ彼女は、追いつかれそうになるスリルを味わうためか、その差をそれ以上広げようとはしなかったが。  結局追いかけるのを諦めて立ち止まった時には、息が上がって喋るのも億劫な状態だった。膝に手をつき中腰になって必死に呼吸を整えようとする。  彼女は立ち止まるとゆっくりと僕の方に向き直った。  あれだけ走り回ったのに、少しも息を切らしていない。白い肌がますます白くなっているように見えた。  麦わら帽子はどこかに飛んでいってしまったのだろうか。彼女は風に揺られる髪を片手でおさえて、ジッと立ちつくしていた。  彼女は……寂しそうに笑っている。  なぜ君は、そんな悲しい顔を……。 「一緒に幸せになろうって約束したのに、ごめんね」  彼女は唐突にそんなことを言った。 「約束?」  意外な言葉に驚きながら、反射的にそう訊ねた。  しばし、無言で見つめ合う。  彼女の寂しそうな笑顔は一ミリも動かない。ただ、絹のように滑らかな髪が風に凪がれてサラサラと揺れていた。  全てが静止している中で、彼女の髪だけが生命を持っている。  君と僕の時間が止まってしまったのだろうか。  世界の中で僕と彼女だけが取り残されている。そんな事を夢想した。  だとすれば……早く時間が動き出してくれればいいのに。  今、君の目に映る僕はどんな表情をしているのだろう。あんぐりと口を開けて、間の抜けた顔でもしているのだろうか。それとも……。  途端に、目の前の彼女の姿が歪んだ。  いや、彼女だけでない、それを取り囲む全てが、グニャリと湾曲した。  頬を伝っているのは……涙? 自分が泣いていることに気づいた、ただ呆然として驚いているだけなのに、なぜか涙は次々にあふれ出し、止まらなかった。 「すまない……本当に酷いことを……僕は……」  僕は彼女に謝った。なぜそうしたかは分からない。まるで、禁忌を犯してしまったかのような罪悪感に囚われていた。  全くどうにかしている。気でも触れてしまったのか? 僕は。 「私達は結局、同じ人生を歩むことはできなかったね」  優しい声音で彼女は言った。よく見れば彼女の瞳にも涙がにじんでいる。  幸福そうな表情をして、笑みさえ浮かべながら泣いている。どこか喜んでいるようであり、悲しんでいるようにも見えた。  諦めているような陰りも、全てを受け入れているような潔さも含んでいるような曖昧さが感じられる。  繊細で脆い心がそのまま映し出されたような……ひどく悲しい微笑み。  彼女の心は少しも窺うことが出来ない。  言葉になる前の感情の渦にただ突き動かされているだけじゃないのか。現に今の僕は、自分の心すらまるで分からないじゃないか。意識の表面上で生まれた感情で、あんな顔が出来るものなのか。  この恐ろしさは……何なんだ……。  不安めいた感情が凝り固まっていき、胸を締めつけていった。 「僕がわがままだから。僕が身勝手だから」  全てが綻んでいくような感覚。掌がじっとりと汗ばんでいる。  何が起こっているのかが分からない。いや、理解してしまうことに恐怖している。  なぜなら僕は……。     本当は全部知っているから  目の前の彼女は僕の言葉を否定するように首を振った。そして、口を動かして何か言葉を発したようだったが、僕の耳にその声が届くことはなかった。 「なんだい……聞こえないよ」  嫌な予感を裏打ちするように、僕の鼓動が一つ大きく高鳴る。  彼女は目を伏せて首を振った。  声が聞こえないだけではない。気づけば彼女の姿は透明に近づいている。  彼女が……消えてしまう?  誰の声も聞こえない。何も見えない。気が付けば僕は、彼女に抱きすがっていた。言いしれぬ感情に怯えながら赤子のように彼女に取りすがる。  彼女が消えないように。もう一度色も質量も取り戻して、いつもの姿に戻ってくれるようにと……。  彼女が一握りの大きさにまで小さくなってしまっても、僕は必死に彼女を抱き締め、祈りを捧げ続けた。  掌の中の感触が消える。同時に……彼女はこの世から消えてしまった。  なぜ、こんなに理不尽に、唐突に……。  涙に濡れた頬を拭って必死に彼女を捜し回ったが、彼女の姿はもうどこにもない。  叫び出しそうになるのをこらえながら、彼女の姿を追って駆けずり回る。  消えるはずはない、さっきまでは僕と一緒に手をつないでいたじゃないか……消えるはずがない……消えるはずが……。  破裂しそうになる焦燥が、体中を爪で引っ掻いている。  いつも手を取り合って笑顔を向けてくれた彼女は、実体を失って消えてしまった。  彼女がいる世界。平凡だが幸福な……そんなありふれた世界。  それは、彼女が消えた途端に全てが崩れ、嘘になってしまった。  彼女がいなくなった途端、全てが作り物めいて見えた。この世も……自分の存在も。  僕は強く念じた。みんな消えてしまえばいいと。  晴れ渡った空も、どこまでも広がる草原も、空高く舞う鳥たちも。この世の全てが、どうしようもなく憎かった。     そうだ……僕は知ってしまったんだ     この世界が最初から壊れていたことを……     現実こそ……悪夢から産み落とされた幻想であることを     もう二度と信じる事はできない     気づいてはいけなかった     永遠に続く悪夢から逃れるためには……     自分だけの箱庭の中に逃げ込むしかないのだから……  夢を見ていたらしい。  夢の中では何もかもが明るく、輝いていた。  今、目の前に広がっている光景とはおよそ正反対の世界。  狭い牢獄の中、俺は膝を抱えてうつむいている。  鉄格子越しに息苦しいほどの強いライトが浴びせられている。 まるで、ちっぽけなゲージ中で飼われているブロイラーだ。  それぞれの牢屋は長方形に積み上げられ、一秒の隙もなく監視されている。  俺がここにいるのは、俺が罪を犯した犯罪者だから。何をしても許されない罪を犯してしまったから。  幸い精神鑑定でも責任能力を有すると診断されて、俺は法によって裁きを下された。  社会は俺に、死という罰を与えようとしている。  線の内側にいることは簡単だ。  道徳も正義も法も、その価値基準を定める根元を辿ることなく受け入れる。不可変のものとして、常識という概念を絶対視する。違う誰かの中に溶け込み、平和な日常に生を見出す。疑問も不安も抱くこともなく、巨大な箱庭の中で飼われている家畜でいればいい。  一度醒めてしまえば、再び見ることは叶わない夢。  幻想の中で生き、目に映る全てが現実だとするならば……現実なんてものの方がよっぽど幻想に近いではないか。  考えるだけで吐き気がする。  もし仮に俺の今までの人生が、全て誰かによって見せられた虚構の産物だったとしても、するべき事は変わらない。ただ実在するかしないかだけの違いで、結局俺は同じ自分の世界で生きているから……。  この世での生は、所詮その程度の意味でしかない。だたし……。  死に逃避してはいけない。死に甘えてはいけない。  自殺など俺には許されないのだ。生きて。生きて……さんざん責め苦を味わってから。最後に他人の手によってあっけなく殺される。そうでなければならない。  俺は償いたい。全てに絶望し君を傷つけてしまったことを。君から最後の一握りを奪ってしまったことを。  楽しかった日々はもう二度と戻らない。  全ての現実が狂い始め、俺の世界は意味を無くした。  君を失ったまま、ただ空虚な時間を過ごすだけ。  空虚な心のまま、ただひたすら膝を抱えて、死刑執行の日を待ち続けるだけ。  俺は、君を幸せにできないと恐れて、君の命を奪ってしまった。     好きだから殺した     愛しているから首を絞めた  言葉にすればなんて違和感があるんだろう。この言葉を聞けば、世間は俺を狂人として捉えるに違いない。  だがもうそんなことはどうだっていい。そんなことは俺の世界では何の意味もないのだから。  君から体の自由を奪った彼らが俺は憎かった。病院という傘に隠れて君を壊した罪を責任の問題へとすり替えようとする彼らがどうしようもなく憎かった。  幾晩眠れない夜を過ごしても幾晩新しい一日に期待を宿しても……君の体に奇跡は起こらなかった。     『一緒に幸せになろうって約束したのに、ごめんね』  何をしても君が元に戻らないのは分かっていた。でも、俺は自分の行為を止めることはできなかった。無力で利己的で……馬鹿らしい復讐。  君のためだった?  違う。自分の弱さに押し潰されただけだ。  彼らの命なんか、一ミリグラムの重さもありはしない。  憎しみは虚しさへと変わり、次第に薄れていく。後には何も残らない。  俺は、君を幸せにできなくなることがどうしようもなく恐かった。君が君でなくなってしまうことが堪らなく恐かった。     『私達は結局、同じ人生を歩むことはできなかったね』  俺の罪は君を死なせてしまったこと。もう手足の自由も利かない君をこの手で殺してしまったこと。  君がいない世界はなんて空虚なんだろう。  君がいた世界こそ俺にとっての本当の世界だった。  誰もが幻想を抱いて生きている。知覚される全ての情報を自分の中の世界に置き換える。  心は抽象化すれば嘘になる。感情に境界線などない。人と人は決して一つにはなれない。  俺が必死に追い求めていたのは、心に映し出された君という写し絵だったのかもしれない。  あの時、俺は何度も何度も謝りながら君の首を絞めた。  君がどんな体になったとしても君には違いないのに……君を失うことが恐くて、自分が情けなくて……。     恐いの? 苦しいの? 悲しいの?     何だい? 教えてよ……聞こえないよ……  分かるはずがない……もう永遠に知ることは出来ないんだ……。  死刑台に上ろうとしている今も、これが何の解決にも償いにさえもならないことを考えていた。  ただ、歪んでしまった俺の世界で君の存在を辱めることだけはしたくなかった。  生きて、生きて……さんざん責め苦を味わってから、最後に他人の手によってあっけなく殺される。そうでなければ俺の犯した罪が清算できない。  生まれてきた理由も生の価値もそれに意味をつけることは自分の世界の反映でしかない。それは死も同じ。  自分の生を否定すれば君の尊厳をも否定することになる。  ただ、それももう終わり……。  もうすぐ俺はどこにも居ない誰でもない、ただの言葉としての存在でしかなくなる。  冷たく無機質な部屋にノイズ混じりの声が反響した。誰かが何かを喋っている。強烈な光が浴びせられ目の前が光に包まれた。  最期に君の顔を思い浮かべようとしたが、イメージとして形を成そうとした君のシルエットは周囲の白に溶け込んで霧散してしまった。  でも、君の声だけは今でもしっかりと思い出せる。  今までに繰り返してきた会話が頭の中で鮮烈に蘇り、頭の中を駆けめぐる。  無知で無力で、それでいて希望だけは一人前に持っていた俺達。互いの存在を確かめ合うように、お互いを見失わないように手をとりあって生きていた。  全てが希望に満ちあふれ見る物全てが美しかったあの頃。  でも……夢も未来も全部壊れてしまったんだね。俺達が未来に見ていた幻視は今では死んでしまった時間に埋もれて消えてしまった。  夢の中にあった幸せの形は無数にあった可能性の一つでしかない。  なのに……一つの終わりに向かって無限に枝分かれしてゆく未来の中でどうして俺はこの道を辿ってしまったのだろう……。  どんな困難だって、君と二人でなら乗り越えていけたのかもしれないのに……。  君は俺の最後のわがままも、あの困ったような笑みで許してくれた。  俺だけでも幸せになって欲しい、そう言ってくれた君を……俺はこの手で……醜い死体に……。     『殺しても……いいよ』  そう……。  いつも俺は、君を困らせてばかりだったね……。  不意に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。  はっとして声のした方に視線を移すと、そこには彼女の姿があった。  消えてしまったはずの、困ったような微笑みをした彼女。  俺はただ驚くばかりで、ただ胸が痛くて。これまで気が遠くなるほど繰り返した懺悔の言葉も口にすることはできなかった。  彼女はこっちにそっと近寄り、少し背伸びをして俺の頬にキスをした。     君が好きだった。君だけが俺の全てだった  優しさに包まれて、俺は全身の力を抜く。もう何も考える必要はない。君が俺を連れて行ってくれるのだから。  俺はそこで君に謝らないといけない。そして君がもし許してくれたのなら、今度こそ俺は君を幸せにしたい。     君と一緒に     いつまでも笑って寄り添っていられたら……  一瞬の浮遊感の後に体に衝撃が奔り、全てが暗転した。     たとえこれが     永遠に覚めない夢だったとしても     俺は……君を……    あとがき  おおっ、ここを読んで下さっているということは……もしかしてこの小説を最後まで読んでくださったのですか?  おお! 素晴らしい! どうもありがとうございます!  さらに、このあとがきまで読んで下さるなんて……感謝の極みっ! (以降は、この小説を読んで下さったと仮定してげんこつまるの暴走が続きます。あしからず)  というわけで(どういうわけで?)げんこつまるです。  これを読んで下さった人は、一体どのような読了感をお持ちなのでしょうか。  えっ? ……ふむふむ。う〜〜んなるほど。  ふう〜。いやはや、まさかそう来るとは。なかなかどうして、あなたもあなどれませんなぁ。(いきなり親しげになっている)  それにしても。(強引な話題の転換)小説の中に女性を登場させるのは今回が初めてでしたので台詞を考えるのに苦労しました(いままでどんなのを書いてたんだ?)  ……ん? 何だか物言いたげな顔をしていますねぇ。  ほうほう……ふむふむ……いや〜。なかなか鋭いところを突いてきますねぇ。  まぁ、それにお答えしたいのは山々なんですけど、ちょっとこれから用事があってそろそろこの場を失礼しないといけないんですよ。本当に本当ですってば。  それでは、そろそろ雲行きが怪しくなってきたので逃走……じゃなくて。用事があるので去ります。コソコソ。           ”墓穴掘り師”げんこつまる